掲示板から自分のことが書かれた紙を剥がし、学園の門から出る。
これからはその中街道って場所に行って、ホテルを見つけないと……!
紙から顔を上げると、見知った顔のふたりがいた。
ククナ「あ、あれ?」
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場所は少し変わって、中街道にある【ホテル:バンライ】。
築54年の歴史を刻むレンガ調の建物は8階建てでリーズナブルな利用料金が魅力である。
コーヒーの香りが漂う広いロビーの一角に、腰掛けるふたりは話をしている。
リズ「ククちゃん……見てくれたかなぁ……」
コロネ「……見てんじゃないの?」
リズ「んー……だといいんだけどー……」
宙を扇ぎながら、パフェを口に放り込む。
コロネ「……アンタ、よくパフェなんて食べてられるわね……;」
リズ「おいしいよ、宇治金時パフェ! コロネも食べる?」
コロネ「いい。いらない。」
リズ「えぇ~~~!? コロネ、甘い物好きなのに!? はっ、まさか……」
リズ「減量だなぁ!?」
ガタッとテーブルに手をつき、立ち上がる。
その様子を、馬鹿を見るような眼でいなされる。
コロネ「……心配じゃないわけ?」
リズ「そりゃあ心配だよ? うん」
パクパクと食べられるパフェはどんどん小さくなっていく。
コロネ「よく食べられるもんだわ……」
リズ「コロネって……やっぱりやさしいね」
下を向き、口を結んで少し照れたように話すリズ。
リズ「今だって、ククちゃんを心配しているからこそ食欲がないんでしょ?」
コロネ「……そ、そんなのじゃないし……」
いつもの強がりが見えたところで、フッと小さく微笑むことが叶う。
リズ「正直にならないとククちゃんは近づいてくれないぞー☆」
コロネ「……べつにいいわ」
腕を組み、しっかりとこっちを向いて真っ直ぐに説く。
コロネ「だって――――リズがいるもの」
リズ「仲良しは多いに越したことはないよ!」
被さるように覆され、なんとも言えない空気になる。
『なんで伝わらないの…』と小さく呟き頭を抱えるコロネとキョトンとするリズ。この光景は幾年経っても変わらないのである。
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リプル「やっ! 元気にしてたかなー?」
まるで声援に応えるアイドルのように小さく手を振っているのは魔法少女のリプルートだ。
後ろには当たり前のように兄のアポロスもいる。
ククナ「リプルちゃん……」
アポロ「お連れ様には逢えましたか?」
ククナ「んーと、それがー……;」
漫画的表現ならば『かくかくしかじか』と言ったところか。
ここまでの状況を出来るかぎり伝わるように話す。
リプル「あぁ~、バンライかぁ~……」
ククナ「えっ! ……なんか……アレな感じの場所、なの?」
リプル「いや違うよ、ただご近所だなぁ~って」
ククナ「ご近所……? ――――あっ、ふたりの?」
アポロ「えぇ、そうです。」
リプル「折角だし、家に寄って行かない?」
アポロ「こちらのホテルのある中街道の突き当りですから……通り道ですね」
リプル「そーそー! あのね、叔母上様にナリアの話をしたら逢ってみたいって言うからさー」
ククナ「え、あ、そう……なの? というか、話したんだ……?;」
リプル「うん!!!」
ククナ「はー……そう…………うん……まあ…………いいけど、さ……」
(いや、よくはないかな……。)や(いったい何を話したと言うんだろう)という複数の思いが心のなかに湧きあがる。
ククナ「あ。」
ククナ「行くのは構わないんだけど……先にふたりに話してからでもいい? たぶん、心配してくれているだろうし……」
狸の兄妹は同じタイミングで頷く。
リプル「もちろんだよ! さぁ、行こっ!」
アポロ「案内しますので……はぐれないように付いてきてくださいね」
ふたりにそれぞれの手を引かれ、駆け出す。
対等で……友達って感じがする! うん、悪くないね。むしろ楽しい!
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ククナ「あ、あのぉ……;」
入口から足を踏み入れると見知った格好の二人組が見えたので、おずおずと近づき声をかける。
リズ「あっ、ククちゃん!」
コロネ「あんた! 何勝手にどこ行ってんのよ!?」
ガタッと椅子から立ち上がり、肩を引っ張られ怒られる。
リズ「まぁまぁ、コロネはねぇ、ククちゃんがいなくて心配してて……」
コロネ「心配――――はしてないけどッ!! どれだけこっちが迷惑をかけられたと思ってんの!? 時間だって無駄になって――――」
ククナ「ごめんなさーい……;」
『うるさいなぁ』くらいの心で謝罪をしたとき、コロネの瞳は自分ではなく違う方を映していることに気がつく。
同じ頃にリズもそれが何かに気がついたようだ。
リズ「あぁ、狸の兄妹さんだねぇ」
アポロ「――――はじめまして。狸族本家第一子、アポロス・フェンです。」
リプル「妹のリプルートでーすっ!」
コロネ「っ!!;」
ククナ「(あぁ……苦手な狸族がこんなにワラワラといるから……;)」
ククナ「(……ん? 待てよ……。リズさんは狸族の血が入ってるって言ってたし……コロネさんは言わずもがな。で、この兄妹は本家だから……)」
狸族の兄妹が代わりに説明をしている間、(……狸がいっぱいだぁ……)と少しほんわかしていたククナであった。
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豪邸と呼ぶ他のない、大きな屋敷がいくつも連なっている。
あの窓がリプルの部屋で、あそこがお兄様の部屋とか言われてもどれがどれなのか全然わからない。適当に生返事で返していくしかなかった。
玄関を通れば日当たりのよく天井の高いホールが迎える。
掃除や家事を行うメイドや執事、真っ直ぐに伸びた廊下に螺旋階段。ドレスを着て歩いたら如何にもお嬢様となるであろう。
ククナ「(リプルちゃんはドレスとか着ないのかな?)」
リプル「ん? あー……動きづらい服嫌いなんだよね。かといってミニのドレスは品がないって言われちゃうし」
ククナ「Σなんで!?;」
リプル「お膝を出すのははしたないんだってさー」
ククナ「いや、そっちじゃなくて……;」
頭を抱えているとクスクスとアポロくんが小さく笑っていた。恐るべし、魔法少女……!
創作物によくあるような両開き扉を通ると、羊羹状の長いテーブルの先に品の良いふくよかな中年女性が座していた。
気品に溢れる眼差しで優しく微笑まれると緊張が走る。
リプル「連れて来たよっ! ククナリア・ポレーヌ……だっけ?」
『合ってるよね?』とこっちに質問してくるが今は話を振らないでほしいと切実に思う。
むこうで勝手に3人で話してくれていていいのに……。
中年女性「……晄……そう……」
女性は席を立つとこちらに近づき、優しく抱擁をする。
優しいオーデコロンが鼻をくすぐる。
えっ……?
中年女性「あぁ……っ、ノノルフちゃんだわ……っ!」
ククナ「は……? え、あ……えっ……?」
なんでこの人は……この人たちは、人の母親の名前を知っているのだろう?
まさか……、この世界は――――
END…